長年カードローンやキャッシングといえば消費者金融の十八番のように思われてきましたが、今では銀行がその消費者金融に取って代わっているのが実情です。
日本経済新聞が2017年8月に発表した日経リサーチの調査によると、過去1年間に銀行カードローンを利用した人の数は消費者金融カードローンを利用した人の約3.5倍にも上り、貸付残高も消費者金融カードローンを大きく上回っています。
この利用者急増となった要因としては銀行カードローンが消費者金融カードローンよりも低金利な点、そして総量規制に縛られた貸し付けとならないことが挙げられます。
また見逃せないのが消費者金融カードローンよりも厳しいと言われていた審査が、消費者金融カードローンとさほど変わらないものであったと指摘する声です。
事実、近年は銀行カードローン利用者に自己破産者が急増し、社会的問題として各方面から問題視する声が多くなり、現在は銀行もカードローン融資の自己規制を取る方向に進んでいます。
そこで今回はこの銀行カードローンの自主規制について詳しく解説し、今後はどうなっていくのかを検証していくことにしましょう。
銀行カードローンに貸しすぎ批判の発端は
銀行カードローンが貸しすぎ批判となった一番の原因となったのは、貸付額に対する明確な規制が行われていない点でしょう。
消費者金融カードローンの場合は個人に対する貸付額の上限が年収の3分の1までと総量規制という法律によって定められているため、消費者金融カードローンは総量規制を上回る個人貸付を行うことができません。
しかし、銀行カードローンの場合は違います。
総量規制は貸金業法に当たるため、銀行法にのとった貸付を行っている銀行は総量規制を遵守する必要はありませんし、銀行法において総量規制に変わる規制が定められた法律が存在するわけでもありません。
貸付額はすべて銀行の裁量に一任されているのが実情なのです。
たとえ貸付額が年収の3分の1を超えるものであっても、銀行が申込者に返済できるだけの能力があると判断されれば貸し付けが行われます。
しかし、ここで重要となってくるのがそう判断するに至った根拠です。
総量規制の貸付上限額である3分の1は、なんの根拠もなく設けられた数値ではありません。
この数値は多くの有識者によって返済不能となる確率が高いと考えられた数値であり、これを超えない借り入れであれば家計を圧迫することもなく、返済しながら日常生活を穏便に送れると判断されたものなのです。
しかし、銀行の場合はこの判断基準に問題があったのではないかと指摘されています。
一連の貸しすぎ批判の根本的要因とされたのは、この判断基準となる審査方法に問題があったのではないかというわけです。
自己破産者が急増
最高裁判所が発表した2016年度の自己破産の申請件数は、前年比1.2%増の64,637件となっており、実に13年ぶりに増加を記録しています。
しかし、この自己破産者の急増が何故、銀行カードローンと結び付けられたのか、これは実際に自己破産者から「消費者金融では借りられなかったのに、銀行は貸してくれました」といった声が多かった点が大きく影響しているでしょう。
銀行カードローンを利用して自己破産した方の多くに多重債務者であったという共通点があります。
- 借り入れが積み重なり消費者金融からの融資を断られ、銀行カードローンを利用した
- 収入が不安定となり銀行カードローンで生活費を借り入れしていた
上記のようにどこからも借り入れできない状況に陥った方が最後にたどり着くのが銀行カードローンだったというわけです。
銀行カードローンは収入証明書の提出が銀行任せ
しかし、何故、こうも簡単に多重債務者が銀行カードローンの借り入れが可能となったのでしょう?
銀行も返済できないような貸し付けを行っても意味のないことは重々承知です。
通常の事業融資にしても自行だけで行うプロパー融資は、銀行が優良企業と認めたところにしか行いません。
それほど銀行の融資審査は厳しいものなのです。
これはひとえに収入証明書の提出が求められる金額が高額設定となっていた点に問題があったとの指摘があります。
カードローンは基本的に本人確認書のみで申し込みできるというのが最大のウリですが、貸付額が高額になる場合には返済原資となる収入が十分に得られているのかを確認されます。
総量規制では50万円を超える新規貸付、および他社借入との総額が100万円を超える貸付時には収入証明書の提出を求めることを義務化しているため、消費者金融カードローンの申込時には収入証明書の提出が必要な借入額が明確化されています。
しかし、銀行カードローンの場合には総量規制の効力がないため、収入証明書の提出を求める基準は各行に任せられているのです。
事実、以前の銀行カードローンの申し込みで収入証明書の提出が求められる借入額は各行バラバラな上、300万円以上といった高額設定を行っているところが少なくありませんでした。
つまり、実際にいくらの収入があるのかを確認することなく、申込者が申請した収入を元に審査が行われていたということになります。
銀行カードローンで多くの利用者が自己破産した際のニュース等では、銀行が満足な調査をせず収入以上の貸し付けを行い過剰貸付となった旨が指摘されていましたが、これはまさに収入証明書の確認なしで収入を計っていたことを指しているのでしょう。
日弁連の注意喚起
また銀行カードローンの過剰貸付に対する世論の意識は2016年10月に日弁連(日本弁護士連合会)が内閣総理大臣、内閣府特命担当大臣(金融)、衆参両議院議長、全国銀行協会会長に提出した「銀行等による過剰貸付の防止を求める意見書」によってさらに高まることになります。
この意見書の趣旨は下記のとおりです。
- 原則として、借入残高が年収の3分の1を超えることとなるような貸付けを行わないようにすべきことを明記すべきである
- 顧客の実態を踏まえた適切な審査態勢を構築すべきである
- 国は銀行等の行う貸付けに保証を付す場合についても総量規制の対象とすべきである。
*日本弁護士連合会HPより参照
つまり、過剰貸付を行なわないためにも、銀行カードローンも消費者金融カードローンと同様に総量規制に定められた個人へ年収3分の1を超える貸し付けを法的に禁じるべきであると主張しているのです。
先程も触れましたが過剰貸付となった原因の一つに、貸付上限額の法的規制がなかったことは言うまでもありません。
日弁連の意見書に書かれていることは自己破産者だけでなく、返済不能に陥る自己破産者予備軍を生み出すことを防ぐためには至極当然の要望と言えるでしょう。
また、この件に関しては下記のように多くの国会議員も言及に及んでいます。
- 貸金業者にかわって大銀行が同じ手口でやっている
- 行き過ぎに危惧している
- 銀行は日本銀行の異次元金融緩和政策でじゃぶじゃぶ供給されたお金を個人向けカードローンに振り向けている
- 生活苦に追い込まれた人を大銀行が食い物にしている
- サラ金で上限額に達した利用者を銀行に紹介し、銀行で借りさせる仕組みができている
こういった要人からの指摘もあり、銀行カードローンの過剰貸付は新聞等のメディアでも批判が相次ぐことになったのです。
全国銀行協会が各行に自主規制を求める
これら世論の言及を受けて全国銀行協会も國部毅会長が2016年12月に始めて定例議会で銀行カードローン問題について下記のように言及しました。
「健全な消費者金融市場の形成に向けて、各行が適切な業務運営をするよう点検していく必要がある」
これを機に全国銀行協会は各行に自主規制を求めるようになり、まずは2017年2月に國部会長の口から貸金業法の趣旨を踏まえた適切なローン広告表示に努めることが通達され、3月には「銀行による消費者向け貸付けに係る申し合わせ」が公表されました。
その申し合わせ内容は下記のとおりです。
・健全な消費者金融市場の形成に向けた審査態勢等の整備
それではこれら内容について簡単に解説しておきましょう。
配慮に欠けた広告・宣伝の抑制
改正貸金業法の趣旨を踏まえた適切な表示を努め、過剰借入とならないための注意喚起を行うとともに、下記のような過剰借入を促すような表示の禁止が求められています。
- 銀行カードローンが総量規制の対象外であること
- 高額借入でも収入証明書の提出が不要であること
健全な消費者金融市場の形成に向けた審査態勢等の整備
また指摘されている審査態勢についても、下記の対応が求められています。
- 収入証明書や自行保有の顧客データによって、収入状況や返済能力を正確に把握することに努める
- 信用情報機関等の情報利用によって、自行、他行、消費者金融の貸し付けを考慮して返済能力を確認するように努める
- 総量規制による多重債務者の発生抑制率を踏まえ、個人の年収に適した借入額比率を考慮した審査方針を保証会社と協議するよう務める
- 貸付後も定期的に諸運用情報の変化の把握に努める
日弁連はこの申し合わせに対して各行の自主規制だけでは不十分と批判し、銀行カードローンも総量規制の対象とするべきであるとの声明を出しましたが、現状では法的規制はなく自主規制に任せた銀行カードローンの貸し付けが行われているのが実情です。
しかし、自主規制にとどまるものではありますが、特に大銀行の貸付姿勢は以前とは大きな変化が見られるようになったのです。
各行ではどんな自主規制が行われているの?
それでは全国銀行協会からの「銀行による消費者向け貸付けに係る申し合わせ」を受け、銀行がどのような対応を行っているのかを紹介していきましょう。
まず大きく変わったのが宣伝広告による下記の訴求です。
・総量規制の対象外
・収入証明書不要
・おまとめローン可能
・専業主婦融資
・即日融資可能
上記の訴求は以前の銀行カードローン広告には多く見られましたが、2017年4月頃よりこれら文言が宣伝広告上に見られることはなくなりました。
総量規制の対象外
総量規制の対象外という言葉は、消費者金融カードローンで借り入れできなくなった方を顧客として引き込むための魅力的な訴求となります。
消費者金融カードローンがダメなら、銀行カードローンがあるという消費者ニーズを増強することとなるのです。
また総量規制を超える貸し付けが過剰貸付となる可能性が高いことから、現在では総量規制という言葉すら銀行カードローンのHPには一切見られなくなっています。
だからといって総量規制は宣伝による訴求を取りやめただけで法的には対象外であり、貸し付けするかどうかは未だ銀行の胸三寸なのが実情で、総量規制を超える借り入れができないことを示すものではありません。
収入証明書不要
以前は高額借入でも収入証明書の提出が必要なかった銀行カードローンが大半でしたが、現在では消費者金融カードローンと同様に50万円を超える貸し付けには収入証明書の提出を求める銀行が多くなっています。
しかし、これも総量規制と同様に提出義務は収入証明書は各行の取り決めによるため、必要となる借入額は銀行によって違っています。
おまとめローン可能
以前はおまとめローン商品も多く扱われていましたが、現在はおまとめはNGで借り換えのみOKという傾向が強くなっています。
またおまとめOKでも追加融資ができない返済のみの商品となっているのが実情です。
よって、おまとめローンとなれば銀行カードローンではなく、消費者金融カードローンの方が商品ラインナップが充実していると言えるでしょう。
専業主婦融資
以前は総量規制の兼ね合いから、専業主婦が借りれるカードローンといえば銀行のみでした。
もちろんすべての銀行が専業主婦への融資をOKとしていたわけではありませんが、借入限度額を低額に抑えるなどして貸し付けを行っている銀行もあったのが事実です。
しかし、現在では全く個人収入がない専業主婦に対するカードローン貸付を行う銀行は皆無に等しい状況となっています。
即日融資可能
サービス面においては消費者金融カードローンの方が銀行カードローンよりも優れていると言われる所以の一つが即日融資。
スピード審査に対応する銀行が増えた今でも、即日融資に対応する銀行は数行しかないのが実情ですが、今後は消費者金融カードローンと同様に即日融資を行う銀行カードローンは増加してくると見られていました。
しかし、これも審査態勢の見直しの一環もあってか、2018年1月に導入される新しい審査システムの登場によって全く目のない話となっています。
この新しい審査システムの導入によって、現在、即日融資に対応している銀行を含めた全行で即日融資が停止となるのです。
新しい審査システムでは反社会的勢力との関わりがないかを確認する目的で、審査時には預金保険機構を通じて警察庁のデータベースに接続し、申込者の情報照会を行う過程が追加されます。
この警察への情報照会の結果は最短で翌営業日、通常で1~2週間もの日数が必要となるため、即日融資が事実上不可能となってしまうのです。
この審査システムは銀行カードローンの過剰貸付が起因となって導入されるわけではありませんが、即日融資ができるのは総量規制のある消費者金融カードローンだけとなれば、年収に見合わない過分な借り入れが原因でこれ以上の多重債務者や自己破産者がでることを防ぐ効果はあると言えますね。
2018年には貸付自粛制度が!
また2018年度を目処として全国銀行協会は貸付自粛制度の導入を目指しています。
貸付自粛性度とは本人および、その家族が追加融資の停止を申し出ることで、銀行から融資制限が行われるという制度で、既に貸金業では導入実施されている制度です。
銀行による貸付自粛制度が貸金業のそれと全く同じものとなるのかは分かりませんが、貸金業における貸付自粛制度のシステムは下記のとおりとなります。
1.日本貸金業協会支部へ申し込み
2.貸付自粛情報が信用情報機関に登録される
3.信用情報照会によって貸金業者からの貸付ができなくなる
特定の貸金業者ではなく日本貸金業協会への申し込みとなるため、登録されるとすべての貸金業者からの融資を自粛することが可能です。
よって、銀行がこの制度を導入すると申込先は全国銀行協会となり、登録後はすべての銀行からの融資が自粛されることになります。
また信用情報機関の登録情報は登録が受理された日から、概ね5年間となるためこの期間内は過剰借入となることを自ら防ぐことが可能となるわけです。
現在は銀行カードローンによる過剰貸付がクローズアップされ、銀行の対応だけに注力されていますが、そもそも過剰貸付とならない為の大原則は本人によるところが大きいことは否めません。
よって、銀行による過剰貸付への自主規制もさる事ながら、この利用者に求められる借入自粛を実現できる制度導入は大きな意味を持つものになるでしょう。