超高齢化社会が進み、貧困状態に陥る老人が増えています。
今年出版されてベストセラーとなった『下流老人』では
ワイドスクランブルより
この3つの「ない」が揃った人を「下流老人」と定義しています。
その実態について『ワイドスクランブル』で特集していましたので、まとめておきます。
目次
高収入から“下流”へ
築35年の都営アパートに住むSさん(70代男性)は、かつては外資系ホテルに勤務し、海外を渡り歩いていました。年収は700万円ほどもあったそうです。
しかし海外勤務が多かったこともあって厚生年金を未払いのまま老後を迎えてしまいました。そのため支給額はごく限られた額に。
年金の減額について
日本に住んでいる人は全て、20歳から60歳までの40年間(つまり480ヶ月です)、国民年金か厚生年金か共済年金のどれかに加入する義務があります。
「480ヶ月全て払って、〇〇円の年金が毎年支給されます」という考え方がまず原則にあります。
この20-60歳までの間に未納があれば、例えば1ヶ月の未納があれば〇〇円のうち、1/480が減額されることになります。
1年3ヶ月であれば、15ヶ月ですから、〇〇円のうち、15/480が減額されるという計算になります。Yahoo知恵袋より
加えて、妻に人工透析が必要となってしまったので医療費がかさみ、一気に“下流老人”となってしまったといいます。
さらに番組では、より深刻とされるケースも紹介されていました。
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親子共倒れ
現在、親の年金を頼りにして生活しているとおぼしき人が60万〜70万人ほどいるそうです。
「親の介護が必要になった」とか「リストラで収入を失った」などの理由から、高齢の親と同居する中高年の子供が急増しています。
これに伴って、親子揃って生活が苦しくなるケースが増えているのです。
Nさん(90代女性)は70代半ばでご主人を失い、ずっと一人暮らしを続けてきました。しかし、4年前に突然倒れてしまい、さらには軽度の認知症の発症による日常生活への支障も出てきたので、50代の息子さんが都内のIT関連会社を介護離職し、妻を千葉の自宅に残したまま、Nさんと同居することにしたそうです。
仕事を辞めた息子さんを悩ませたのは、やはりお金のことでした。
サラリーマン時代は500万円の年収がありましたが今ではゼロになり、Nさんの年金の月12万円だけで2人の生活をやりくりしているといいます。
ワイドスクランブルより
番組では、食費をかなり削っている様子が紹介されていました。朝の半額セールでの購入が日課だといいます。
それでもたった一人の肉親なので、できることはやっているという息子さん。Nさんは同居を始めてから以前よりも元気になり、息子さんもネット経由でホームページ作成などを請け負ってわずかに収入を得るようにはなっているそうです。
しかし、Nさんは息子さんに感謝する一方で、奥さんと離れ離れでいてくれることに申し訳なく思う気持ちもあるといいます。
親の介護のために仕事を辞めてしまう中高年とその親は、支えあいながらも厳しい現実に疲弊している様子でした。
こうした親子共倒れの背景について、同居事情と失業問題について調査した総務省統計研修所の西文彦氏はこう述べていました。
「親の年金を頼りにしていると思しき人が60万〜70万人いる背景には、かなりの量の非正規労働者の存在もある。(支出に占める割合として)家賃が大きいから、セーブするために親と同居という選択肢がでてくる。雇用の状況が改善されない限りこの問題は続いていくだろう。」
番組で紹介されていたグラフを見てもその激しい増え方がわかります。
親と子供の同居は、1980年の39万人から2014年の308万人に急増しているのです。
ワイドスクランブルより
この背景にあるのが失業者と非正規労働者の増化。
収入が低いために親の年金を頼って同居をすることになり、結果、親子共倒れになるケースが出てきているのです。
一方で、親子共倒れにならないように敢えて子どもとの同居を避ける人もいるようです。
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子供には頼らないという選択
築50年、家賃1万6400円の都営アパートで一人暮らしをするAさん(70代女性)。
かつては広い家で夫と娘の3人で暮していたといいます。
しかし30年前、夫が階段から転げ落ちて事故死。以降は2ヶ所のホテル内清掃を掛け持ちしたりしながら、娘さんを女手一つで育てました。現在、娘さんは結婚して家を出ていきましたが、現役世代のうちに老後の蓄えをする余裕がなかったAさんの現在の生活は、国民年金の月7万円だけが頼り。とても貯金などできない状態だといいます。
ワイドスクランブルより
このように、食費光熱費でほとんど消えてしまいますね。
Aさんは身体に不調も抱えています。
以前、頚椎が悪くなった際に飲んでいた薬の副作用で、手や顔の痙攣が続いているそうです。
このような大変な状況にも関わらず、Aさんは娘さんに頼ることはしないと決めていると語っていました。
「娘たちにも子供がいて、生活が厳しい。一杯一杯でも年金だけで生活するのが親の役目。」と語るAさん。
「この老後は想像していた?」という番組スタッフの問いかけに対して「想像していなかった。こんなにひどいと思わなかった。こんな苦しい思いをするとは…」と語っていました。
『下流老人』の著者藤田孝典氏によると、このAさんの事例は決して珍しいものではないとのこと。「一般的な暮らしをしていた人が、妻を介護施設に入れたり、子供が失業したりするなど、ちょっとした変化ですぐに下流老人になってしまう」のだそうです。
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親子共倒れの背景
番組では、平均所得金額の推移が紹介されていました。
ワイドスクランブルより
なんと、たった20年ほどで約130万円も減っています。
こういった背景や介護離職によって、親の年金を当てにせざるをえない生活になってしまう人たちが…
ワイドスクランブルより
これだけ増えてしまっているのですね。
まとめ
介護離職については、2015年9月に安倍晋三首相が掲げた「新3本の矢」の中で「介護離職ゼロ」が唱えられるほど、注目されはじめています。
それでも簡単には解決しないであろうこの介護と仕事のバランスについて、番組に登場したワーク&ケアバランス研究所主宰の和氣美枝さんが以下のようなアドバイスを提示していました。
「介護者の不幸は、選択肢が見えなくなること。なので、自分を自分として見てくれる環境を作るべき。それが仕事として収入に直結するのが一番いい。」
「とにかく外に出て、社会との接点をとってほしい」
今回の特集から、個人の努力不足の一言では済まされない構造的な問題が、“下流老人”問題を引き起こしていることがよくわかりました。