目次
ブラックパートとは?
NHK「あさイチ」では「やめたい!避けたい!『ブラックパート』」について特集していました。
サービス残業や無理なシフトなど過酷な労働を強いるブラック企業、ブラックバイトが問題となっています。このようにブラックというと正社員や若者への問題と思いがちですが、最近多くの女性が働くパートでも深刻な問題になるケースが多いとNPO法人労働相談センター副理事長の矢部明浩さんは指摘します。
番組で紹介した他にも、実際に2015年3月には、亀戸労働基準監督署が大手パン製造会社を書類送検したという例もあります。この会社はパート従業員に139時間に及ぶ時間外労働をさせた上、残業代を一部しか支払いませんでした。このパート従業員が脳疾患で倒れ、労災を申請したことがきっかけで劣悪な労働実態が明らかになったのです。
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ブラックパートの代表的なケースとは
番組によるとアンケートで多かったブラックな待遇は(1)突然クビになる(2)残業代がでない(3)社会保険に入ってもらえない の3つだそうです。
突然クビになる?!~Nさんのケース~
都内に住むNさん(仮名・40代)は仏壇・仏具を扱う会社にパートとして入社しました。その際は店長(正社員)とパート2人いたのですが、店長は違うお店と掛け持ちになって不在となり、パートの2人はみな別の待遇の良い仕事を見つけて辞めてしまったそうです。Nさん一人になってしまったのです。
お店の仕事と責任をパート1人に全部押し付ける店長
そのため、店の準備、電話の対応、接客といった店内の業務を1人でこなさなければなりませんでした。店長に1人では無理だと訴えたところ、「忙しいから自分で考えろ」と言われてしまったそうです。
さらにその翌月、新しいパートが入ってくると、その人の教育などの面倒も見なければならなくなりました。そこでクレーム対応だけでもやってほしいと店長にいうと「クレーム対応はパートであろうと売った人がするもの」と取り合ってくれません。
「店長は何かあった時に責任を取る立場ではないんですか?」
と、Nさんが聞くと
「自分は責任負わないから」
と言われてしまったそうです。
新しいパートが戦力になった時点で使い捨てに
その後、パートが2人さらに加わり、仕事がまわるようになってホッとしたのもつかの間、シフト表を見ると月14日の勤務が10日に減らされてしまっています。店長に聞くと、
「あなたはシフトに入れづらいんだよね。もう来月はシフトに入れないから」
と言われ事実上の解雇になってしまったのです。
泣き寝入りするしかないの?
NGO「働く女性の全国センター」代表栗田隆子さんによると、Nさんの例のように最初社員と一緒にやっていた仕事がパートだけになり、店の仕事の全責任をパートが負うという過重労働のケースが多いそうです。
パートは基本的に弱い立場で、人間関係をこじらせて仕事がなくなったらどうしようと不安を感じる人が多く、なかなか社員に訴えづらいそうです。またそもそも、Nさんのケースのように職場にパート1人しかいないので相談する相手がいないという環境の問題もあるとのことです。実際に番組で実施したアンケートではブラックな待遇に「我慢した」「辞めた」とあきらめた人が多かったそうで、その割合は実に7割にもなっていました。
あさイチより
しかし、Nさんはあきらめませんでした。ゲスト社会保険労働士の須賀美貴さんのサポートにより解雇予告手当と勤務日数を不当に減らされた分の差額およそ5万円を会社に支払わせることができたそうです。
解雇予告手当とは?
労働基準法で企業は雇用者を解雇する際に30日前までに伝えるよう義務付けられています。
番組で紹介されていた「解雇予告手当」とは、企業が30日前までに解雇予告を行わなかった場合、30日前から解雇予告をした日までの日数と平均賃金を掛けた金額を手当として受け取ることができるというものです。Nさんのケースでは、「シフトにいれづらい」と言われた日からシフトを入れてもらえなかった月まで30日を切っていました。
解雇予告手当をもらうためには、
〇解雇を言い渡した日
〇いつ解雇するのか
〇解雇をする理由
を書面でもらうことが必要だと社会保険労働士の須賀さんは言います。労働基準法で解雇通知書は求められたら書くのが義務となっていますが、書くのを渋る企業もあるので、社会保険労務士のように間に入ってくれる人がいるとスムーズに進むとのことです。専門家が間に入っていると知るだけでも企業は態度を軟化する傾向があるのだそうです。
このことは労働基準法で定められているので、会社が応じない場合は労働基準監督署に届け出れば対処してくれますが、その場合、企業に請求したという証左が必要だそうです。
「解雇」の言葉を使わない企業
番組では
「出産する際に『正社員ではないので育休をとっても戻ってきても働ける保障はない。そのことを頭に入れて休みに入ってください』と言われ、泣く泣く辞めた」
という視聴者から寄せられた声を紹介していました。このように企業は「解雇」という言葉を使わず、事実上の解雇にしているケースが多いそうです。Nさんのように「シフトに入れづらい」と言われたり、視聴者の方のように「育休後は仕事を保証しない」と言われたりした場合には「それでは、働き続けるためにどうしたらいいんですか?」と尋ねて相手に応えさせるべきと社会保険労務士の須賀さんはアドバイスしていました。
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残業代がでない~Sさんのケース~
Sさん(仮名:50代)は3年前から首都圏の金融機関にパートとして働いています。取引先をまわる営業として1日6時間、週4日の契約で働いていましたが、ある時期から残業をつけられなくなったそうです。
「残業はしないでください」と言った支店長から残業を依頼される
ある時、職員・パート全員に対し、支店長から「残業はしないでください」と言われたのです。しかし、仕事量は以前と変わらず、毎日1~2時間の残業をしなければなりませんでした。また、定時で帰ろうとしたところ、残業を禁止した支店長みずから残業を頼んできたのです。しかし、Sさんは就業報告書に定時退社と書いています。「おかしいんじゃないですか、と言いにくい雰囲気がある」とSさんは言います。
Sさんは自分のカレンダーに実労働時間を書いているそうです。2か月あまりで残業は30時間にものぼりました。
Sさんは夫をなくし、子供と2人暮らし。パート収入だけで家計を支えているため、自分が疑問に思っていることは言わなければいけないけど、仕事を失うわけにいかないので言いだせないと言います。
誰かに相談を!
Sさんのケースについて、働く女性の全国センター代表の栗田さんはまず誰かに相談してみるのが第一歩だとアドバイスしています。
険悪な雰囲気を作らないように、例えばSさんのケースで残業を頼まれた場合、聞けるのであれば「残業はするなと言われてますけど、どうしたらいいでしょうか?」とさりげなく聞く、または同僚がいれば相談するとよいとのことです。また、働く女性の全国センターでも設けている電話相談窓口で相談するのも良いとのことでした。
社会保険労働士の須賀さんは、相談の仕方についても工夫が必要とアドバイスします。Sさんのケースの場合、支店長の独断ではなく、本部の意向による指示なので、支店長に直接訴えても残業代をもらえるようにはならない。そこで、「私、とても困ってるんです。どうしたらよいですか?」といったスタンスで相談すると状況が打開できる場合もあるそうです。
相談するならどこ?
番組ではこのようなケースの相談先の候補を紹介し、Sさんのケースではどこに相談するべきかゲストの専門家に聞きました。
労働基準監督署
労働局
労働組合
社会保険労務士
弁護士
働く女性の全国センター代表の栗田さんは労働組合がおすすめだそうです。企業内労働組合ではパートは対象でないことが多いのですが、コミュニティユニオンという地域で活動する労働組合もあります。コミュニティユニオンは辞めた後でも入ることができるそうです。
社会保険労務士の須賀さんは社会保険労務士に相談することを勧めています。社会保険労務士は職場の環境を良くする仕事なので、こういった時にこそ活用してほしいそうです。相談は無料というところもあるのでいろいろとまわってみて情報を仕入れた方がよいとのことです
解雇予告手当のように給料に関する請求は最長2年までさかのぼって請求することができます。
相談するために必要なのは「証拠」
そして、相談する際に必要なのが証拠です。番組では証拠となる例を以下のように挙げていました。
パソコンのログオフの時間
就業間際のメール送信時間
最後に打ったレジ画面の写真
帰宅直前の職場の時計の写真
帰宅を知らせる家族へのLINEやメール
社会保険労働士の須賀さんによると、付き合っている彼女に帰宅を知らせるメールが裁判で認められたケースもあるそうです。奥さんがつけている日記なども証拠として認められる可能性があるとのことでした。
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社会保険に入れてもらえない・・~Yさんのケース~
Yさん(仮名:40代)は、2年前から食品の製造工場でパートとして働いています。独身なので、将来の年金のことも考え、社会保険完備の仕事を探し、この会社への入社を決めたそうです。
社会保険完備のはずが「対象外」
試用期間として仕事をする際に、契約書を見たところ、「社会保険の対象外」と書いてあります。聞いたところ「正式に採用になってから」と言われたため、サインしました。しかし、2か月の試用期間が終わってから契約書を見ると、またもや「社会保険対象外」の表示。話が違うと言って会社にかけあいましたが『社会保険には入れない』の一点張りで取り合ってもらえなかったそうです。思った条件とは違うのでやめるという選択肢もあったはずですが、Yさんはせっかく見つけた仕事なのでしぶしぶ本契約を結んだそうです。
やっと社会保険に入れたけど・・・遡り加入はなし?!
お願いをし続けた結果、正式採用になってから半年後の契約更新時に社会保険に加入することができました。しかし、試用期間と正式採用から半年は未加入扱いのままだったのです。
あさイチより
Yさんが調べたところ、本来は最初に雇用された試用期間のはじめにさかのぼって加入できることがわかりました。
会社に相談すると、「法律では加入できるけど、会社の決まりとしてはできない」と言われたのです。法律よりも会社の決まりが優先するというのは普通ならあり得ないことですが、実はケースはよくあるのだそうです。
パートで社会保険に入る条件とは?
法律では社会保険加入の要件は
〇1日または週の労働時間
〇月の所定労働日数が一般社員の3/4以上
であることとなっています。Yさんの場合は、1日8時間、週5日働いているため、要件を難なくクリアしています。
そこで、Yさんはユニオンと呼ばれる個人でも加入できる労働組合に助けを求めました。
話を聞いた「なのはなユニオン」委員長の鴨桃代さんは、Yさんのケースは試用期間の時から社会保険加入の条件をクリアしていると判断し、すぐに会社側に法律違反を訴え、団体交渉を要求しました。
会社は要求されると団体交渉を開かなければなりません。
これを団体交渉権といいます。企業内組合だけでなく、地域の組合にも団体交渉権はあるのだそうです。Yさんの会社は団体交渉の場でユニオンの主張を受け入れ、試用期間からさかのぼって社会保険に加入しました。
Yさんは、「労働組合に相談してこんなにあっけなく解決するとは思わなかった」と言います。
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ブラック待遇から自分を守るために。
朝イチのアンケートによると、その他にも
「昼休みは1時間という約束だったのに10分間しかとれない」
「パートは有給休暇をとるなと言われる」
「残業代は店長のエクセルの編集次第で左右される」
などのケースがありました。
こうしたトラブルに陥らないためには契約書の勤務日数・勤務時間についての記載をしっかり確認することが必要なのだそうです。
「●日以内」「●日程度」と幅を持たせた表現の場合、どのぐらいの幅なのかを確認する必要があります。ただ、ケンカ腰で聞くと人間関係をこじらせる原因にもなります。長く働きたい職場こそ確認の仕方に注意をしなければいけないと社会保険労働士の須賀さんはアドバイスしていました。
なのはなユニオンの鴨さんも、長く働きたい職場でこそ、契約書はチェックし、疑問点は確認すべきと指摘します。契約書をチェックすることで、後々自分の置かれている状況がブラックなのかそうでないのか判断する基準を作ることができるそうです。
契約書がない場合は、メールで勤務条件を企業に送付し、企業側から返事をもらうということも有効だそうです。返事が来なくても証左となるとのことでした。
番組で紹介した契約書の他にも、「常に大量募集している」「職場の雰囲気が暗い」といった仕事の場合は注意する必要があります。
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視聴者からの質問
番組では視聴者からの質問にゲストの専門家が答えていました。
A.法律で有給休暇は労働者の権利として定められています。(番組では簡単なコメントにとどまりましたが、雇い入れの日から6か月以上経過し、出産・育児、労災、有給休暇期間を除く全労働日数の8割以上勤務していればパートでも有給休暇が取得できます。)
A.引かれた証拠をハローワークに持っていくと引かれた分の金額が戻ってきます。
A.本人が器物破損のような賠償を求められない限り、そのようなことはありません。
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ブラックパートについて視聴者からの声続々
視聴者からは、
- 大手ショッピングモールの映画館では、自分の代わりを見つけないと休めない。夜中に熱がでても『今から電話して代わりをさがせ。だめなら明日来て代わりを探せ』と言われた。
- コンビニで働いているが、お中元、お歳暮、クリスマスケーキなど、店の商品を自費で買わされる。学生のバイトも同様。
- 実際に解雇されたけど、会社は自己都合扱いにすりかえた。
- 就業時間を増やすのを断ったら解雇された(小売店)
- 時給を上げてといったらクビになった(小売店)
- 肺炎で長期の休みを申し出てたらクビ(スーパー)
- 妊娠したらクビになった(介護施設)
- 始めての仕事先で雇用契約書ももらわず働いていたら、成果を出せてないと給料をもらえず、「雇用契約書を交わしてないから訴えても勝ち目はないぞ。」と言われ泣き寝入りした。
といった声が寄せらていました。
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雇用側からはこんな意見も
「どうしても社員を配置できない期間があり、その期間だけパートさんに時給を上げて社員の仕事の分をお願いしたが、結局家族の都合と言って出社しなかった。お子さんの事情で休むのは理解できるが、パートが急に休んだ分は社員が全て穴埋めをしなければならないという実情もある。公平な報道をお願いします」
「ブラック企業という言葉が蔓延し、悪用しようとする人もいる。経営している会社で信頼していた仲間が突然退職し、不当な金額を請求された。盗聴器まで仕掛けられていたこともある。弱い立場を守るのが法というが、弱い立場はパートだけでなく、まっとうに経営している会社も同じ。」
といった声が紹介されました。
ブラックな待遇で困ったら?
番組では紹介していませんでしたが、NHKのホームページでブラックパートの相談先について紹介しています。
https://www.nhk.or.jp/asaichi/2015/10/28/01.html
ブラック企業大賞のホームページでは行政機関も含め、上記以外の相談窓口について紹介しています。
http://blackcorpaward.blogspot.jp/p/blog-page_29.html