お手伝いさんと聞くと、なんだかお金持ちってイメージがしませんか?
多くの人は、お手伝いさんと聞くと、お手伝いさんそのものじゃなくて、その人の周辺環境、つまり、大きな家、広い庭を想像するのではないでしょうか?
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確かに、今の日本で"お手伝いさん"って言うと、ごく一部のお金持ちしか縁のないものという感じがします。しかし、日本でも、ほんの何十年か前までは中流家庭にお手伝いさんがいることが珍しくはありませんでした。特に戦前では中流程度の家であれば住み込みのお手伝いさん(女中)を雇用しているのが一般的だったそうです。大正期から昭和初期に関する庶民の生活について記述されている『「月給百円」のサラリーマン―戦前日本の「平和」な生活 (講談社現代新書)』という本には以下のような記述があります。
「女中さん」は月十円で雇えた。家事手伝いが食事と部屋付きで、今の二万円相当で雇えてしまう社会だったのだ。
~中略~
当時は今以上に保育園もない。各家庭で女中さんを雇って子供の面倒を見てもらうのが基本だから、・・・
ということで、お手伝いさんはかつての日本にもたくさんいたわけです。
さらに世界に目を向けてみると、これが驚いたことにお手伝いさんを雇う家庭が結構多いんだそうです。
今から10年ほど前、カタルーニャ人夫妻のピソ(マンション)の一室をお借りすることになったときのことだ。この家に間借りしてみて、通いの家政婦さんが週3回やってくることがわかった。いち日おきに毎回3時間、何種類もの洗剤やモップを使って、家中を徹底的に掃除していた。
しかも、こうした慣習は特に裕福な家庭に限ったことではないということにも驚いた。
私がお世話になったお宅のセニョーラは、専業主婦なのだが、自分で掃除はほとんどしない。夫は外資系企業に勤めているし、子どもはインターナショナルスクールに通っていたが(当時は小学生)、ごく中流の家庭だ。
専業主婦は時間があっても、掃除をしないですむ社会・・・なんだかうらやましかった。その時間、彼女は自分の自由な時間が過ごせるのだし、ホコリまみれになることもない。
家政婦さんを雇っているのは、よほどの資産家か、芸能人のような高額納税者のイメージがある日本社会とは、ずいぶん事情が違うのだ。
これはスペインでのお話です。
『"外資系企業の旦那さん"に"インターナショナルスクールに通う子供"って中流なんですか?』と確認したくはなりますが、通いの家政婦を週に数日雇うっていうのはスペインでは珍しい話でもないという点には驚きです。
また、この記事によると、最近はフィリピン人が英語を話せるということで英語教育に熱心な親御さんから好評なのだとか。フィリピン人は基本的に英語で学校教育を受けるそうです。これには公用語が英語ということが背景にあるようで、元々の言葉であるタガログ語も使いますが英語も普通に話す人が多いわけです。もっとも、フィリピン人の話す英語は"フィリピンなまり"が強く、イギリス人やアメリカ人でも聞き取れないことがあるのだとか。日本でいえばなまりのきつい方言を聞くような感じなのかもしれません。しかし、発音自体はあまりよくなくても、ちょっと話せるようにとか、英語の入り口としては問題ないわけですね。
他では、東南アジアでもお手伝いさんを雇うのが普通な国はたくさんあるようです。
ベトナムでは、家事を家政婦、お手伝いさんに頼る家庭がよくみられる。最近は家政婦の需要が中流家庭まで広がっており、それに伴う社会問題も増えてきそうだ。
ジェトロホームページより
これはベトナムの場合。もう少し突っ込んで料金を調べてみると、一日9時間で週に6日というケースで月に450ドルっていうのもありました。これだとかなり安いですね。一日4時間程度だとこの半分くらいで200ドル~250くらいになるそうです。
次はインドネシア。
夕食の準備や掃除は、住み込みで働いているお手伝いさんがやっていた。インドネシアの中流家庭以上では、お手伝いさんがいることは普通なのだとか。子供と一緒に遊んであげたりもしていた。
GATHERE Indonesiaより
インドネシアでは、日本人では想像できないほど家政婦さんやベビーシッターの文化が深く根付いています。比較的安いコストで雇えるので、特別に裕福な家庭でなくても1~2名の家政婦さん、ベビーシッターさんを雇っているのがふつうで、女性は家事や育児に縛られることなく仕事が続けられるというわけです。
ザイオンラインより
次は香港。
共働きが当たり前の香港では中流家庭以上なら、お手伝いさんがいることが多い。
『香港生活いいとこわるいとこ』より
次はマレーシア。
マレーシアでは中流家庭に住み込みメイドがいることも珍しくありません。
ちなみにわが家のメイドフィーは、週2回2〜3時間家事をしてくれて月に500RM(約1万6500円)、ガーデナーフィーは家賃に含まれてます。
『ワクワク海外移住』より
他にも探せばいくらでも出てきそうです。
物価とか価値観とかいろいろな違いはあるでしょうが、各国のお手伝いさん事情を紹介している記事を見る限りは、海外の中流家庭がお手伝いさんを雇うというのはさほど珍しいことではないようです。
このあたりの事情を勘案すると、女性の社会進出とも関連づけてしまいます。例えばインドネシアはイスラム教の国ですが女性の社会進出は非常に進んでいるそうで、会社の重役や政治家など、日本以上に女性が社会の要職で活躍しています。その背景にあるのがこうした家政婦文化という見方もあながち間違いではないかもしれません。半住込みのようなお手伝いさんがいて、お手伝いさんに家事や育児をやってもらえるから女性もフルタイムで働きに出れる、というわけです。
ちなみにこちらはマスターカードが発表している、女性の社会進出に関する資料。
日本の低さが際立っていますね。ランキング的には女性が対象の悲惨なニュースがよく取りざたされるインドの次に低い。
では、現代の日本でお手伝いさんを雇うとなるとどうでしょうか?簡単にですがネットで調べてみると、
http://www.bunkyomakoto.co.jp/
家事サービス
4時間約7000円(一時間当たり1750円)
※交通費別途
http://www.assist-kd.com/defaultTop.asp
家事代行定期コース
4時間10190円(一時間あたり2547円)
※消費税・交通費別途
http://www.ecobeans.jp/
家政婦サービス
3時間7500円(一時間あたり2500円)
※消費税・交通費別途
安いところで一時間1700円ちょっと、他では一時間2500円あたりが相場のようです。これに消費税や交通費が別途かかってきますから都心であれば一時間3000円くらい見ておく必要があるかもしれません。仮に、一時間3000円として、一週間に一回、4時間の家事をやってもらったとしたら、
3000円×4時間=12000円/1日
12000円×4回=48000円/1ヶ月
ということになります。
週に一回だけで月に約5万円。日本の中流ではなかなか手を出せないですね。安いところに家事代行を頼めば、週に4時間程度で月に3万円というのもありますが、それではありがたみとしては薄いかもしれません。
現実味があるラインを考えるならば、"1日5時間を平日は毎日お願いできて費用が月5~6万円"といったあたりではないでしょうか?これなら主婦が働きに出て月に10万とか15万稼げれば十分ペイできますし家計的にも潤います。待機児童の解消や女性の社会進出促進の有効な手立てにだってなりうるわけです。しかし、言うまでもないですが、それはお手伝いさんの給料が少なくなるということを意味します。月5万円の費用だとして時給に換算してみると、
5時間×22日=110時間
5万円÷110時間=454円/時間
6万円だと
5時間×22日=110時間
6万円÷110時間=545円/時間
ということで最低時給にも及びません(2015年4月時点の最低賃金は約700円~900円弱)。つまり、中流程度の家庭でも広く利用されるような家政婦サービスが成り立つためには、所得格差が大きいことが前提になってくるということです。外国でお手伝いさん文化が広く根付いている背景には、このように大きな所得格差という問題が隠れているからだともいえるのではないでしょうか?
平均的な家庭でもお手伝いさんがいるというのは一見うらやましい話にも思えますが、国民全体で見た場合には必ずしも喜ばしいばかりではないのかもしれません。ましてや、「本当に任せて大丈夫だろうか?」といった心理的な負担も考えると、日本においてお手伝いさんとはやはり高嶺の花といえるでしょう。